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2004.02.21

浅倉卓弥「四日間の奇蹟」

第2回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作ですが、その方向で期待して読み始めると、???ってことになります。これはミステリーではありません。
「仕掛けが、ある有名作家の先行作品と同じ」ということですが、私はその作品を知らないので、その点は別に気になりませんでした。ただ、ありえないよ~と思って(笑)、そこからは、ファンタジーだと思って読むことにしました。
しかし、久々に、素直に感動できる作品に出会えた気がします。
感動といえば、例えば浅田次郎の一連の作品にも確かに泣かされるのですが、あれは何か違うんですね。作家の「術にはまってしまって」泣かされるって感じ?
こちらはそうではなくて、もっと純粋に訴えかけてくるものがあったというか。

以下ネタばれになりますので、これから読もうって方は、読んでから見て下さいね。

とても丁寧な描写の、風情のある文章で、私はそれも好きでした。
ただ、500頁ほどある本の、ほとんど半分くらいまでは動きがないし、一人が30分くらい話し続けてるというような、TVドラマとかではあり得ないような場面もあって、そこで脱落してしまう人、いるでしょうね。私も、いま医学書の世界に身を置いているのもあって、これ以上仕事以外の場で医学用語見たくないよ(T_T)と思ったり。
ピアニストのお話なので、クラシック、特にピアノ曲の描写が細やかで、読みながら曲が頭の中に流れてくれば楽しいだろうなと。ただ、うちの夫なんかの場合は、確かに流れてくるでしょうが、本の内容は好みに合わないだろうと思う…

事件が起こってからは一気に読めてしまいますね。
それで、「それが興ざめ」とも言われる仕掛けですが、私はここから、作者の別のメッセージを受け取りました。これは「死にゆく人の心の軌跡」を辿った本です。だから、テーマはとても哲学的、宗教的だと。
ちょっと話はそれますが、『死ぬ瞬間』で有名なエリザベス・キューブラー・ロスの自伝である『人生は廻る輪のように』を去年読みました。感銘を受けて、『死ぬ瞬間』3部作も全部読んだのですが、そこに書かれていた、死に瀕している患者が通る5段階―否認と孤立~怒り~取り引き~抑鬱~受容―、これを、浅倉さんは小説の中で描いてみせたのではないかと。
私の見当違いかも知れませんが、もし浅倉さんの頭にそんなお考えがあったとしたら、彼の技量は大したものだと思います。キューブラー・ロスの本には、主にがん患者などの話が出てきます。ですから、例えば事故で一瞬にして命を失う場合、または意識を失ってそのまま戻らなかった場合などの患者の心の中は分からない訳です。
何も分からないまま死んでゆくのか、またはそうではないのかも。
それを、『四日間の奇蹟』では、他人の体を借りることによって、目に見える形で読者に見せている。そして、死にゆく彼女の心の成長ももちろんだけれど、その過程を主人公である元ピアニストが見守ることによって、彼自身が変わってゆく…
体を貸すことになった、脳に障害のある少女はさしずめ天使でしょうか。

通勤電車で読んでいたのですが、降りて会社までの道すがら、道端のプランターの花々も、散歩してる犬も、出勤途上の人たちも、みんな愛しく思えてきてしまう…
そんな不思議な本でした。

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